「ちょっとお小言を申し上げます。あなたの点字はとても汚くて読みにくいですね」という年賀状を毎年のように担任の先生から頂いていました。今考えると、その先生方の点字の分かち書きが本当に正しかったかどうか・・・・・小学部の先生は点字を教えないといけないので点字の読み書きができて当然だと思うのですが、中学部・高等部の先生の中には、他の先生に試験問題を点訳してもらったり、全盲の先生の墨字の問題を作る代わりに点字の答案を読んでもらう、ということが日常茶飯事だったようです。

盲教育がそんな状況なので、ボランティアの方々のほうがきれいな点字を書かれます。十年に一度くらいの割合で、国語審議会の答申に合わせて点字表記が改訂されていますが、視覚障害者は無関心な人が多く、最初に覚えた点字表記を通している人が多いのです。墨字でも、きれいな字の人や達筆すぎて読みにくい文字、漢字が多い人、カナが多い人とさまざまなので、点字にもいろいろな表記があって当然なのかもしれませんが・・・

そんな私が点字が好きになり、点字表記にも拘りを持つようになったのは、小学部5年生の担任の先生の影響が大きかったと思います。その先生は、夏休みに本を一冊移してくるようにという宿題を出されました。でも、そのおかげで私は読みやすい点字の分かち書きが腑に落ちたと感じたのです。どう力を入れれば疲れずに点字を長時間打ち続けられるかも分かりました。その先生は、一日の授業を全部読書に当てて下さったことがあって、夢中になって「ハイジ」や「ああ無情」を一日で読んでしまったという記憶もあります。

中学生になって、生徒会活動で予算書や決算書などの議案や文集を作る機会が多くなりました。当時はパソコンや点字プリンターはなかったので、亜鉛の板を二枚重ねて専用の製版機で点字を打ち、プレスして資料を作っていました。先輩から、分かち書きを勉強するために点字表記法を買って読んだほうがいいとか、視覚障害者関連のニュースを知るために、点字毎日を読んだほうがいいとかいろいろアドバイスを受け、実行に移しました。(中学生から点字毎日を読んでいる人って、どれくらいいるのかな!)

その点字毎日に、「名古屋の点訳サークル六つ星会が、ポールモーリアのピアノ楽譜を点訳して販売し始めた」という記事が掲載されました。エレクトーンとピアノは違うけど、点字楽譜を販売し始めたということに興味を持ち、早速注文しました。

点字楽譜とともに、「手書きの点訳資料が摩耗してもいいように、また早く読者にお届けできるように、転写して下さる視覚障害者のボランティアを募集しています」というお便りが入っていました。点訳ボランティアの方々にありがたいなあと思うことがあっても、まさかお手伝いできることがあるとは夢にも思わなかったので、早速問い合わせをしてみました。そうしたら「地元に住んでるなら出てこいよ」と言われ、それから六つ星会の活動に参加するようになったのです。

転写は遠方の人にも頼めるから、お前は校正をやれと言われ、朝から晩まで声が枯れるまで読み合わせをしました。

将棋検定の問題の校正をしていて間違いを見落としてしまい、叱られたこともありました。ボランティアとはいえ、大切な試験のお手伝いをする以上、責任ある活動をしなければならない、二人で読み合わせするだけでは何となく通りすぎてしまうこともあるので、原本との照合は一人でやらないといけないということを痛感しました。

生徒会活動で点字製版のノウハウもあったので、手書きのものを製版して多部数作るお手伝いもしました。

六つ星会は昭和20年代から活動している点訳サークルですが、手書きの点本を名古屋市立鶴舞中央図書館点字文庫に納めるのが主な活動でした。そこで、点字出版を主に行い、視覚障害者に直接点訳資料を届けたいと思う有志が別れて発足したのが大樹会です。

漢点字との出会い

「何だこのお化け点字は!8点もあるじゃないか」それが私の漢点字に触れた第一印象でした。

一般に使用されている日本点字は、ひらがなとカタカナの区別もない表音文字です。そのため、文節分かち書きという難しい文法を点訳ボランティアは覚えなければならないのです。しかし、いくら分かち書きしても、同音意義語、著者がどこを漢字にし、どこをカナにしたかは伝えることができないのです。そこで創案されたのが漢点字です。

漢点字を書くためには8点打つことができる点字器が必要です。小型の懐中定規は販売されていましたが、とても書きにくく、またその割に高価でした。そんな状況では漢点字を普及させることはできません。ならば作ってしまえ、学生にはとくに安く頒布しよう、というのが当時の六つ星会点字出版部長の堀場信昭さんのお考えだったようです。

漢点字板を世に出すまでには、いろいろ試行錯誤がありました。私が入会したのはもう最終段階だったと思いますが、点の出がどうのとかいろいろ文句を言ったり、拘りながらヤスリで削るお手伝いもさせていただきました。そして完成した一号機を、今も愛用させていただいています。

漢点字を勉強して「時計とは時を計ると書くんだ」なんて、晴眼者からすれば当然のことに感動したり、「土産」という文字はその土地で生産されたものだからこんな字を書くんだとか、浴衣はお風呂上がりに着るものだからこんな文字を書くのかとか、感動の連続でした。

鍼灸治療のためにカルテを作るのに「ひろこ」さんという方がいらっしゃると「弓偏にムの弘です」「三水に告げるの浩です」とか言われますが、漢点字を勉強していなかったら全く分からなかったことでしょう。


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