平瀬 徹
皆さんこんにちは。日本から参加しました平瀬徹と申します。
このような国際大会の場でお話させていただき、各国の皆さんと情報交換の機会を与えていただいたことに大変感謝しています。
私は、1996年の国内アビリンピックに「日本語ワードプロセッサ(視覚障害者部門)」でエントリーしました。録音された会合のテープを聴きながら、それをワープロで入力する職種を「録音タイプ速記」といい、その技能を競うものでした。
今日は、日本の視覚障害者が社会参加するために不可欠な文書処理について、私が感じていることをお話したいと思います。
まず、どうしても避けて通れないことに、漢字の問題があります。
日本語は、漢字と平がな、カタカナで書き表しますが、現在広く使われている日本点字は平がなとカタカナの区別もなく、発音通り書く表音文字です。
点字の漢字符号も考案されていますが、あまり普及していません。漢字を点字で表現するには、2種類の方法がありますが、それぞれ利点も欠点もあり、これが普及や公認を遅らせている原因になっているものと思われます。
最近は、紙に書かれた文字をスキャナで読み取ってパソコン上で文字として認識させる装置も普及してきていますが、数千字に及ぶ漢字、とくに画数が多い漢字を正しく読み取れるものは皆無に等しい状況です。
日本語には同音意義語がたくさんあります。漢字は一文字ずつ意味を持っていますので、漢字を用いれば正しく情報を伝えることができます。しかし、視覚障害者は通常漢字を使わずに生活していますので、パソコンを使っていても、その画面の漢字の意味をどう区別して表現するかが難しいところです。合成音声でそれぞれの漢字の意味を説明させていては、一目で画面を見渡して候補文字を選択入力できる健常者と比べると随分効率が悪いのです。
点字での漢字表現が普及すれば、日本の視覚障害者も健常者と一緒に就労し、業務を遂行できると思います。
次に、パソコンのオペレーティングシステム、つまりパソコンと人との間で通訳をしてくれるシステムについてお話したいと思います。
最近のパソコンは、絵を見ながらマウスを操作しなければなりません。企業でネットワークに接続されたコンピュータを操作しながら健常者とデータを共有するためには、マウス操作をキーボード操作だけでエミュレートしなければなりません。
WINDOWSなどの音声画面読み・点字表示ソフトも開発されていますが、十分使用できるようになるころには世の中は新しいOSに移行しているということもあり、インタフェースをどう構築するかが問題です。
現在、WINDOWS98上ではワードやエクセルも音声化マクロを組み込むことで使用できるようになりましたが、WINDOWS2000については点字の漢字の直接入力ができないなど、まだまだ制限があります。
次に、教育・支援体制についてお話します。
点字の漢字や視覚障害者のパソコン環境について精通した教育者が少ないこと、音声化・点字化するソフトウェアやハードウェアは需要が少ないため一般販売ルートに乗っていないという問題があります。
最後に、今後の展望について私が感じていることをお話します。
日本の視覚障害者の主な職業は、鍼灸マッサージです。私も自宅で鍼灸マッサージの治療院を開業しています。そして、本年4月からの介護保険の施行により、視覚障害者もケアマネージャーの資格を取得できるようになりました。ケアマネージャーは、介護保険のサービスを受ける人それぞれに合ったケアプランを立て、事業者との連絡調整をする新職業です。私も、障害者には障害者の気持ちが分かるケアマネージャーが相談に乗ったほうがいいと思い、ケアマネージャーの資格を取得しました。
今までは、来院される患者さんのカルテを点字でつけていても問題はありませんでしたが、これからはケアに関わる担当者で効率よく情報をやり取りし、よりよいケア体制を整えることが必要になってきました。介護が公的な措置ではなく、契約になり、利用者からよりよいケアチームが選ばれる立場になったからです。
また、介護保険では、国保連に請求するレセプトは電子メールやフロッピーディスクなど、電子的媒体が原則になりました。
このような要因は一見不利なように思われますが、紙に書かれた文字処理が難しい視覚障害者にとっては、電子的に文字情報をやり取りすることは、健常者との障壁が少なくなり、とても有意義なことだと私は思います。
WINDOWS用のスクリーンリーダーが開発されるまでは、視覚障害者がパソコンを使用するためには外付の音声合成装置をパソコンに接続する必要がありました。しかし、WINDOWS上で動作するスクリーンリーダーは、WINDOWSのサウンド機能を利用できるため、小型のノートパソコンだけを持ち歩き、外出先でもインターネットに接続して情報の入手ができるようになりました。健常者も介護保険に関わる訪問調査には携帯端末が必須と言われていますが、視覚障害者もノートパソコンを持ち歩いて同等に調査することが可能になりました。
点字の漢字を文部省が公認し、教科書にも取り入れて早期教育する、視覚障害者がパソコンを利用する上で必要なソフトウェアやハードウェアの開発や購入に対して公的補助制度を創設する、パソコン関連システムを開発する企業に対し、障害者のアクセスをも考慮した指針を策定する等の施策を講ずれば、視覚障害者も社会参加が容易になり、健常者と一緒に働くことができるようになると思います。