第7回国際アビリンピック国際会議発表原稿

私は、1996年の国内アビリンピックに「日本語ワードプロセッサ(視覚障害者部門)」の愛知県代表選手として参加し、金賞を受賞しました。

2000年にプラハで行われた第5回国際アビリンピック・チェコ大会では、日本語ワープロの競技がなかったため、国際会議で、日本の視覚障害者の現状と今後について意見を述べる機会を与えていただきました。

今回は、日本で視覚障害者の適職といわれてきた鍼灸マッサージ業の現状を中心に、それにかかわる外出支援やホームページ開設、鍼灸マッサージ治療の保険申請書作成ソフト開発について、私が取り組んでいることをお話します。

日本では、16世紀末から視覚障害者の適職として、鍼灸マッサージ教育が行われていて、現在2万5千人の視覚障害者が従事しているといわれています。私も鍼灸マッサージの治療院を開業しています。しかし、2006年末の鍼灸マッサージ師の晴眼者に対する視覚障害者の割合は按摩マッサージ指圧師25.2%、鍼師18.4%、灸師17.9%、私が住んでいる愛知県内の構成比は按摩マッサージ指圧師17.7%、鍼師12.8%、灸師12.4%と、間もなく一割になろうという勢いです。

晴眼者が進出してくるということは、鍼灸マッサージ治療の効果が社会から認められ、期待されているということだと思います。晴眼者と同等にこの業界で生きて行くためには、視覚障害者ももっと勉強して、知識や技術を身につけるべきだと思います。

とはいえ、専門学術雑誌は点訳されるまで数か月を要します。医学に対する新しい情報を得るためには、外出して積極的に講習会を受講する必要があります。  日本では、1974年に、障害者の外出を支援するガイドヘルパー派遣事業が創設されました。当初は、居住する市町村内で、平日の9時〜5時までしか利用できませんでしたが、昨年障害者自立支援法が施行され、全国どこでも利用できるようになりました。 ガイドヘルパーの交通費は全額利用者が負担しなければならないため、旅客運賃の減免や、目的地の事業所のヘルパー派遣など、制度の拡大利用についても働きかける必要があると思いますが、遠方の講習会へも出かけられる環境は整いつつあると思います。

2000年4月、介護保険法が施行され、ケアマネージャーという新しい職業が生まれました。ケアマネージャーは、介護保険のサービスを受ける人それぞれに合ったケアプランを立て、事業者との連絡調整をします。医師、看護師などとともに、鍼灸マッサージ師もケアマネージャーの資格を取得するための試験を受けられるようになりました。私も、障害者には障害者の気持ちが分かるケアマネージャーが相談に乗ったほうがいいと思い、資格を取得するための対策講習会を受講しました。すると、晴眼者の同業者から「おまえら勉強したって役に立たんぞ」と言われ、奮起しました。先にも述べましたように、点字の本が世に出るまでにはとても時間がかかります。試験の半年前に、活字で出版された「介護支援専門員標準テキスト」が点字出版されたのは試験の二カ月前。しかも42巻にもなりました。受験対策講座に持って行ける量ではありません。ボランティアの方々が、講義のレジュメを作って下さったおかげで、私は無事合格することができました。現在は、視覚障害者の外出を支援するガイドヘルパー養成講座の講師をするにあたり、必要な資格としても役立てています。

2001年4月、愛知県鍼灸マッサージ師会にIT委員会が設けられ、視覚障害者ではただ一人、私が委員に任命されました。私の役割は、デザイン重視ではなく、だれもがアクセスしやすいホームページについての意見を述べることでした。ホームページのアクセシビリティについての知識を得るためには、まず私自身もホームページを作ることが勉強になると考え、ひらせ鍼灸のホームページを作りました。  東洋医学の神秘について解説しているホームページはたくさんありますが、私は難しい理論は抜きにして、平易な言葉で、患者さんにどのように接しているかを書いています。また、視覚障害者は何が自分でできて、どんなときに手伝ってほしいかをお伝えするコンテンツも作りました。  このコンテンツをご覧になって、ヘルパー養成研修の講師や、地域の小中学校から福祉教室の依頼があるようになりました。

また、日本鍼灸師会IT委員の一員として、レセプト対応電子カルテの開発にも参加しています。

日本では、病気になったときに高額の医療費を払わなくてもいいように、健康保険制度があります。病気になったときは、医療費の1割〜3割を支払えば治療を受けられます。低所得の高齢者や障害者の一部負担金を補助する福祉医療制度を設けている自治体もあります。  患者さんは高い保険料を払っています。目が見えないから保険を取り扱えないというのは寂しい話です。患者さんの当然の権利行使のため、視覚障害者にも保険請求事務ができるように、ソフトの開発段階から参加させていただき、私たちも保険請求ができるようになりました。

視力がないと、マウスを動かさないと操作できないソフトは使用できません。WindowsVISTAには、画面を拡大したりコントラストを変えて見やすくする機能、画面を音声で読ませるためのナレーター機能、マウスを使わずにキーボード主体で操作できるショートカットキーが搭載されています。レセプト対応電子カルテシステムには、すべての機能にショートカットキーを割り振っていただくことができ、私たちにも保険事務ができるようになりました。

最近は、駅の券売機、銀行や郵便局のATMもタッチパネル式になりました。テンキーや音声を使えるものもありますが、盲聾二重障害の方には音声ガイドが聞こえないために使えなくなってしまいました。バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方とは逆向する動きです。

当地静岡は、世界的にも楽器の街として知られています。私はエレクトーン演奏が趣味です。しかし、最新機種はタッチパネル操作が主体になり、豊かな機能を駆使して演奏することができなくなりました。タッチパネルにすれば、ボタンを自由に配置し、コストを削減できるということがあるのでしょう。特定の和音を押しながら何かのキーを押すというように、Windowsのショートカットキーのような操作もできるようにしていただければ、私たちも今まで以上にエレクトーン演奏を楽しめるのではと要望していますが、なかなか叶えられないでいます。

アビリンピック静岡大会のちらしや国際会議の抄録集には、SPコードという音声読み上げデータが印刷されています。しかし、SPコードを読み取る装置は、自宅で障害者自立支援法の契約書を確認することを前提に開発され、携帯性には優れていません。この会議のように、点字資料を作成するゆとりがないときや、コンビニやスーパーマーケットで売られている商品名や価格、食品の消費期限の確認にこそSPコードの威力が発揮できると思いますが、当時者のニーズは開発者やメーカーには届いていないようで残念に思っています。

私は、アビリンピックに参加できたことで、パソコンに対する興味が増し、ホームページを作り、それがきっかけでヘルパー養成の講師をさせていただく場も与えていただきました。

今後もアビリンピックから得たものを生かし、視覚障害者と晴眼者の橋渡し役として、どんな工夫をすれば視覚障害者が自力でできることが増えるか、そのためにはどんな援助をしてほしいかを働きかけ、また視覚障害者の文化や技術向上のために働きたいと思っています。


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