点字はだれのもの?

点訳をしていただく上で最も大切なことは「点字でどう伝えるか」だと思います。

日本で広く使われている点字は、ひらがなとカタカナの区別がない表音文字です。しかし、日本語は漢字、ひらがな、カタカナが混在しています。電報のように続いていては理解できないので、点字では分かち書きをします。

最近は「長過ぎる文節は中途失明者に読みにくい」ということで「中川 区役所」と切ることになりました。しかし、「よーち えんちょー」とした場合「幼稚な園長」と理解されてしまうかもしれません。「海水浴場」は「海水浴を満喫する場所であって「かいすい よくじょー」では塩水のお風呂です。

国語の文法の授業では「何々する」までで一続きの言葉だと習います。しかし「点字では空けるんだよ」と教えなければならない、と盲学校の国語の先生がおっしゃっていました。

<私も、カラオケに行ったとき「恋する」を「こいする」と続けてあったほうがスムーズに歌えます。

「する、して」の切れ続きの判断が難しいので、切れば点訳図書の統一ができるだろうということで切るようにしたのでしょう。

また、最近は、漢字の知識がない視覚障害者にも点字の分かち書きを理解しやすいようにと、拍数を目安に切るようになりました。「松並木」は指折り数えて五拍なので続けて、「桜並木」は六拍なので、同じ漢字三字でも「さくら なみき」と切るというようにです。

ところが、「点字表記辞典」では、和語と漢語によって分かち書きを変えています。漢字二字二拍の和語は続け、漢字二字二拍の漢語は区切ると明言しています。 「塩ラーメン」「紙テープ」は和語だから続け、味噌 ラーメン」「磁気 テープ」は漢語なので切るというのです。 味噌ラーメンも塩ラーメンもスープの味が違うだけなので、なぜ「みそ ラーメン」は空けて「しおラーメン」は続けるのか、「磁気テープ」も「紙テープ」も五拍なのになぜ区別するのか、普段漢字を使って生活していない視覚障害者にはとても酷な話です。

車イス使用者でありながら点訳もして下さっている方が「車イスバラバラにしてほしくない」とおっしゃっていました。「椅子」が漢字のときとカタカナで原文の表記を区別できるということはあるのかもしれませんが・・・・・

原文に忠実な点訳を、と言いつつ、「インター ネット」「ネット ワーク」は長すぎるからと、表記辞典では空けてあります。でも、「リーダーシップ」は「切ると意味が違ってくるから」と続けることになっています。「ネットワーク」だって、「網の仕事」という意味ではないので、空けるのはおかしいと思うのは私だけでしょうか?

点字表記が文法から外れて行くのはとても残念です。

「視覚障害者の方には新しい点字表記に馴れていただかないと・・・・・」とボランティアの方から言われたことがありますが、点字はだれのものなのでしょうか。触読して意味を理解しやすく、書きやすい点字とはどのようなものなのでしょうか。本当にブツブツ切るのが中途失明者にも読みやすいのでしょうか。

読者が2万4千人ほどいると言われている「点字毎日」は、「する、して」は今も続けていますし、使われている記号も少ないです。点字毎日はお金を払って読んでもらわなければ発行し続けられないので、視覚障害者のニーズをとらえているものと思います。

「点訳講習会をしても、百人受講して残るのは七・八人」と言われています。せっかく奉仕しようと受講して下さる方がたくさんいらっしゃるのに、とてももったいないことだと思います。

そして、点訳ボランティアの方々が拠り所になさっている「点字表記辞典」が、読み手である視覚障害者に受け入れられていないので、せっかく点訳して下さった本があまり読まれていないというのが残念です。

「点字表記辞典」は、用例集であり、迷ったときに引くにはとてもいい資料です。しかし、ときには「日本点字表記法」を参考に、どう書き表せば意味を理解しやすいかを点訳サークルで話し合っていただける機会も作っていただけるとうれしいです。

上記のようなことを申し上げると「平瀬さんがおっしゃることはもっともですが、私たちはやっぱり表記辞典を拠り所にするしかありません」と言われてしまいます。

パソコン点訳が主流になり、読者から点字で感想が届いても読めない点訳ボランティアが増えているということを耳にするようになりました。

「点字のマス空けが難しくて・・・・・」とおっしゃる方には、私は点字のお便りを差し上げるようにしています。実際に紙に書かれた点字をお読みいただくことで、どう表記すれば読みやすいかということをご理解いただくことができるからです。

パソコンで入力なさったデータも、校正するときは点字パターンやかなでプリントしていただき、それを読んでいただくのが点字表記を理解する早道だと思います。

パソコン点訳をするときに気をつけていただきたいこと

パソコン点訳は画期的です。点字を知らなくてもローマ字やかなで入力したものが、点字になって、点字プリンターで出力できてしまいます。自動点訳ソフトを使えば、漢字かな交じり文も一瞬にして点字に変換できてしまいます。

しかし、いくらパソコンソフトが優秀になっても、点訳ボランティアが必要でなくなる日は永久に来ないと私は思います。

漢数字の一と計算式の−と長音のー、算用数字の1とアルファベットのil、カタカナのヘとひらがなのへなどは、スキャナでは誤認識することがあります。また、「、。」の代わりに「,.」を使って書かれた文書も、そのままでは点字にしたときに読みにくいです。

図や表も、説明を加えたり、縦書きを横書きにするなど、配慮していただかないと理解できません。

パソコンで点訳できるようになって、手書きのときよりも敏速に資料を作成できるようになりました。しかし、機械任せではけっして読みやすい資料はできませんし、きめ細かな配慮こそが点訳ボランティアに求められるようになっていると思います。


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