視覚障害者が従事している職業

視覚障害者が最も多く従事しているのは、あん摩・マッサージ・指圧、鍼、灸のいわゆる「三療業」です。しかし、その他にもいろいろな職種で活躍している方がいらっしゃいます。

電話交換手

一般的には、電話交換手は「明るい声の窓口」と言われています。受付嬢とともに、会社の顔であり、窓口になる人です。

20年くらい前までは、各企業やホテル、デパートや病院などには必ず電話交換手がいて、代表番号にかかってくる電話に応対し、お客様のニーズに合った内線(担当部署)に繋いでいました。電話交換手と言う職種は専門職で、電話オペレータ技能認定証を持っていなければできない仕事だったのですが、1985年以降は、認定証を持っていなくても電話交換業務ができるように、法律が改定されてしまったので、免許を持っていない人も交換業務に就くようになり、企業も交換手の求人を出さなくなってきているそうです。さらに、最近はダイヤルインと言う方法に換わってしまい、各部署に直通番号がついて、ダイレクトに繋がるようになってしまったので、代表番号にかかってくる電話を交換手が繋ぐこともほとんどなくなりました。

今でも極僅かな企業は電話交換手を置いていて、現役で「明るい声の窓口」として頑張っていらっしゃいますが、郵便物の発送などの事務も兼ねなければならなかったり、営業と同じように商品販売のノルマを課せられたり、状況は厳しくなってきているようです。

録音タイピスト

会議を録音したテープを聴きながらワープロ入力する仕事です。テープレコーダーの再生・巻き戻し・ストップはフットスイッチで操作します。テープをストップさせると、少し巻き戻しした所で止まってくれるので、聴き漏らしがなくて便利な機械が開発されています。

以前は、カナタイプライターで打ったものを聴覚障害者が漢字カナ混じり文に書き直して納品していたようですが、今は視覚障害者が音声ワープロで自力で漢字カナ混じり文を作成できるようになりました。

まだまだ仕事が少ないようなので、視覚障害者がこの仕事ができることをアピールして行かなければならないと思います。

コンピュータープログラマー

視覚障害者のために、点字や音声で画面を確認できるソフトを開発しているソフトハウスで働いていたり、経営している視覚障害者がいます。

ただ、大企業に雇用されている視覚障害者は、マウス操作ができないため、窓際に追いやられているケースも少なくありません。「私は出社してお茶飲んで帰るだけでも、会社は障害者雇用率を達成し、罰金払わなくてもいいんだから」と開き直っていた人がいましたが、何か寂しい気持ちになりました。

音楽関係の仕事

琴を教えたり、琵琶法師をしたりして活躍されている方もいらっしゃいますが、ご年輩の方が多く、今後は少なくなって行くのかもしれません。 ヴァイオリンやピアノなどクラシック演奏で活躍されている方で有名な視覚障害者はたくさんいらっしゃいます。

しかし、ポピュラーやジャズ系でメジャーな方は日本人には少ないようです。 私も音楽で身を立てられたらという夢はありましたが、好きな音楽は趣味に取っておきたいと思い、鍼灸マッサージの仕事に就きました。(クラシックの才能がなかったということのほうが大きかったりして・・・・・)

その他

農業をなさっている方、図書館司書をなさっている方、公務員や盲学校の先生、一般企業で事務系のお仕事をなさっている方もいらっしゃいます。

鍼灸マッサージ業について

私が名古屋盲学校の専攻科理療科に入ってまず感じたことは、鍼灸マッサージも奥が深いなあということでした。いろいろな流技があって、それぞれ勉強会があります。

日曜日には、あちこちの勉強会に参加し、とくに脈診から治療方針を導き出す経絡治療に興味を持ち、燃えました。その勉強会には、たくさんの晴眼者も参加していました。夏休みや冬休みは朝から晩まで、平日も下校してから夜9時ころまで先輩の鍼灸院に通って、勉強させていただきました。

今私は経絡治療はしていませんが、学生時代に生きて働いている穴(つぼ)の取り方を経絡治療を通して勉強できたことは、日々の臨床に大変役立っています。

盲学校では、国家試験に合格するだけのことを教えるのがやっとだと思います。公務員は副業を持ってはいけないということもあるのかもしれませんが、先生方は殆ど臨床はなさっていないようです。鍼灸マッサージ師会にも入会されていませんし、臨床家が参加する勉強会でもお見かけすることはありません。

一方、晴眼者の方々は、この不況で脱サラしてとにかく早く収入を得なければという必死な思いがあるのか、学生時代から鍼灸院で勉強したり、学会にも参加してらっしゃいます。

こんな状況では、技術的にも差が出るのは当たり前です。「晴眼者の進出で視覚障害者の成業を取られてしまう」なんて嘆くのではなく、視覚障害者ももっと頑張るべきだと思います。

鍼灸マッサージ師の職場

病院

いわゆるリハビリテーションのために雇用されています。

理学療方士と同じマッサージや機能訓練をしても、マッサージ師は点数が低いという矛盾があります。

鍼灸治療は病院では健康保険の対象ではないので、せっかくライセンスがあってもマッサージしかさせてもらえないのが現状です。しかし、病院で鍼灸をするようになれば、開業鍼灸師にとっては死活問題なので、今のままがいいのかもしれません。

鍼灸マッサージ治療院、サウナなどへの勤務

私が盲学校を卒業して就職した鍼灸院は月給制でボーナスもありました。しかし、まだ歩合制で、雇用保険もない所のほうが多いかもしれません。徒弟制の名残があるんでしょうね。

ヘルスキーパー

ヘルスキーパー(企業内理療師)は、企業などの職場で、マッサージ・鍼・灸・運動療法などを行い、社員の疲労を回復させ、業務能率向上と健康の維持・増進を図っています。福利厚生としてヘルスキーパーを雇った企業でも、健康保険の治療代抑制につながっているケースもあるようで、今後のニーズが期待できそうです。

開業にはタイミングも必要

二年間鍼灸院に勤めた後、私は開業しました。本当はもっと勉強したくて、五年くらいは勤めようと思っていたのですが、院長が立地条件など調べて下さって「自宅で開業したかったら、今がチャンスだよ。もう平瀬君なら大丈夫だから」と太鼓判を押して下さったので思いきって開業することにしました。

見積もりを依頼した医量器具業者からも「きっとここはだれか開業すると思っていた」と言われましたし、私より後で開業した晴眼業者は、半年くらいでいなくなってしまいました。今思えば、ちょうど平屋の市営住宅が高層に建て替えられる時期で、引っ越して行く人、引っ越してくる人の両方の患者さんを獲得することができました。

後で業者から聞いた話ですが、私が辞めた後、勤めていた鍼灸院の入口に、ひらせ鍼灸院開業のちらしを掲示して下さっていたそうです。そして、私の治療を気に入って下さっていた患者さんが、わざわざ来院して下さったこともありました。技術も人としても、とても素晴らしい院長の下で働かせていただいたことで、今の私があることに感謝しています。

信頼関係を大切に

「治療以外は患者さんとの関わりを持たない」という同業者もいます。ひらせ鍼灸院の患者さんの中にも「接客のときに全力投球するので、一歩外へ出たら挨拶もしたくない」とおっしゃっていた方もいらっしゃいます。それはそれで職業人としては素晴らしいと思いますが、私はできるだけベッドサイド以外でのつき合いも大切にしたいと思っています。

患者さんが経営なさっている飲食店にもよく行きますし、カラオケに誘われて出かけることもあります。

膝を痛めたとき、お風呂好きの患者さんにサウナに誘っていただいたときはとてもうれしかった!

最近は、月二回ペースで、ジャズが好きな患者さんとライヴハウスに行きます。

将来は、患者さんにお願いして、鍼灸院を大きく改築できたらなぁと夢は膨らみます。

ケアマネージャーという仕事

介護支援専門員(ケアマネージャー)は、介護保険のサービスを受けようとする利用者に、毎日の時間割を作ってスタッフを派遣し、サービスが滞りなく行われているか見守り、また利用者の様態に合わせてケアプランを変更します。事務的なことが多いので、今のところは視覚障害者が単独で行うのは大変です。ヒューマンアシスタント制度を利用して、老人ホームなどで活躍されている方もいらっしゃいます。パソコンの利用で処理することも考えられますが、今のところは音声や点字で画面を確認できるシステムはないようです。

「おまえら勉強したって役に立たんぞ」

愛知県鍼灸マッサージ師会主催のケアマネージャーの受験対策講習会に参加して、晴眼者の役員さんから言われて、とても腹が立ちました。もし私が年をとっても、こんな人にはケアプランは立ててもらいたくないと思いました。

ケアマネージャーの試験には医師、看護婦、社会福祉師等の資格を有していて、一定以上の実務経験がないと受験できません。その中に、私たち鍼灸マッサージ師も含まれました。もちろん点字受験も可能です。

鍼灸マッサージ業は視覚障害者の専業のように思われてきましたが、その効果が見直され、晴眼者の従事者が七割以上を占めるようになりました。あん摩・マッサージ・指圧については、法的に晴眼者の養成施設の定員を規制することができますが、鍼灸については野放し状態です。職業の選択は自由なのでそれをとやかく言うつもりはありませんが、上記のようなことを言われると、とても心外です。

そこで、どうしても合格しなければと思い、受験勉強をしました。点字は嵩張るので、テキストが23冊にもなりました。それも、活字のものよりかなり発行が遅れ、届いたのは受験日の2カ月前でした。

鍼灸マッサージ師会の受験対策講習会で点字のレジュメを用意してほしいというのは望み薄なので、名古屋市社会福祉協議会主催の講習会を受講しました。社会福祉協議会の中にはボランティアセンターもありますので、ボランティアのご協力を得て、点字のレジュメを用意していただくこともできましたし、社協の職員の方が横について黒板に講師の方が書かれる文字も読んで下さいました。

二日間の講習なので、テキストすべてを網羅することは叶わないとは思いつつも、本当にこれで大丈夫かと思うような片寄りがある講義もありました。でも、実際の受験では、講義で割愛されたところは全く出題されずドンピシャリでした。

けっきょく、「おまえら勉強したって役に立たんぞ」とおっしゃった方が合格なさったかどうか、あるいは受験をなさったかどうかも分かりませんが、ケアマネージャーとして活動してらっしゃらないことは確かなようです。

そして私は

鍼灸院に来院なさる患者さんにアドバイスして差し上げることはありますが、ケアマネージャーとしての業務は行っていません。しかし、ホームヘルパーの養成研修会の講師として来てほしいというお話をいただくようになり、障害者の立場から、介護についてのアドバイスをさせていただいています。 お年寄りの中には視力が低下する方や、糖尿病で白内障を併発する方など、目が不自由な方が多いので、視覚障害者のガイドヘルプ技術も身につけていただければと思い、お話させていただいています。

平成15年度からは障害者施策も措置から契約制になりました。障害者のためのケアマネージャーも制度化されるというかがありますが、今のところ、福祉課の職員一人が聞き取り調査をし、その職員の裁量によって支援費の必要量が決定されています。もちろん健常者の方々も専門的知識を持って活躍されることと思いますが、当事者も何らかの形で関わって行く必要があると思います。


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